歴史再発見「日記が明かす平安貴族の実像」 国際日本文化センタ-教授倉本林 一宏
180403①「古記録とは何か」
「日記とは何か」
日記とは日付があって、ほぼ毎日書かれているものである。平安時代には日記と書いて「にき」と
呼んだ。
「日本古代の日記」
・伊吉博徳の書→日本書紀
奈良時代の官人で遣唐使となった伊吉博徳のもの。この時代、唐が百済と戦争状態にあった為長安で軟禁
された。この時の情況を記した日記は、日本書紀に引用された。当時の唐と百済の関係を中大兄皇子に
報告したとされる。
・壬申の乱に従軍した舎人たちの日記→続日本紀
巻28にその時の様子が引用されている。
・具中暦断簡
具中歴とは奈良平安時代の太陰暦の暦本。歳位・星宿・干支・吉兆等を日ごとに記す。空白に日記
を付けた。
この天平18年の断簡(切れ切れになった書き物)が正倉院に残されている。これが暦にかかれた日記の一番
古い例である。
「日本の日記の特徴」
・平安時代中期になると色々な人が日記を書くようになる。天皇から僧侶・学者・武士・・・・。近世に
なると庶民まで。これほど多くの階層の人が日記を書く国はない。またそれが残っている国も無い。
特に君主が自らということは他の国ではありえない。日本の文化の特徴である。何故なのか、何故
日本だけ残ったのか。この事は日本文化史の中で重要なことである。
「何故日記が残ったのか」
・平安時代中期で正史が無くなったからである。正史は①日本書紀(奈良時代建国→持統天皇)・
②続日本紀(文武天皇→桓武天皇)・③日本後記(桓武天皇→淳和天皇)・④続日本後記(仁明
天皇)・⑤(文徳天皇)⑥三大実録(清和天皇→光孝天皇)のいわゆる六国史で終わる。9世紀末で
日本は正史(国史)を作らなくなるのである。
・この頃から朝廷の儀式は前例を踏襲することに厳しくなる。然し正史が無い。この為に先例を記した日記が重んじられるようになった。
・高位の人達は日記を書くことが重用され習慣になって行く。逆に言うと六国史の時代には日記は
殆ど残っていない。
・故人の日記が何故残ったかというと、公家を中心にした人たちの家系が藤原氏を筆頭に続いたからである。
・本来はもっとたくさんの日記が残っている筈であるが、京を中心とした戦乱で多くが失われた。
・天皇中心の朝廷が続いた。朝廷が断絶すれば全て失われていたであろう。
・都が明治維新まで京都に存在し変わらなかった。
・公家は平家・源氏以降政権から遠ざかり力を失うが、文化継承は自分たちの役目とし、歴史を伝えることが権力であるとした。文学作品より家の日記を残すことが大事と考えた。藤原氏の嫡流
(北家)の近衛家では、源氏物語の写本があったが、大事の時にまず取り出すのは
「御堂関白日記」であった。源氏物語は二の次。藤原氏にとって何にもまして事なものは藤原氏の記録なのである。これが現代に日記が数多く残っている理由である。
・もし応仁の乱が無かったらどれほど多くの日記が残っている事だろう。
・明治になって記録は五摂家(藤原氏北家-嫡流の中で摂政・関白に成れる家柄。近衛・九条・二条・一条・鷹司)で分割されたが、残っているのは近衛家分のみ。全部残っていたら膨大な量となって
いただろう。
「公家が日記を書く方法」
・藤原師輔の「九条殿遺誡」-子孫に残す道徳的教えと毎日行うべきことを書いている。
日記は朝に書くこととしている。 道長の祖父。摂関政治の祖。
(貴族が毎日行うべきこと)
●属星(自分の生まれた年の守り星)の名を7回唱える
●鏡を見る その日の健康状態を確かめる
●暦でその日の吉兆を確かめる
●手水をする
●前の日の事を日記に書く
公事(朝廷で行われる政務及び儀式)のみが対象であり、私的なことは書くべからず。
・一般には具注暦(奈良・平安時代の暦)に空白を設けて日記を記すようになっている。
殆どの人は具注暦の空白に日記を書いた。
・藤原忠実(平安末期の貴族。摂政・関白 道長の四世の孫)
日記の心得を記している。
●摂政関白に成ると詩歌を作ることは無益であり、日記をつけるべし。
●文学より朝廷の公事が大切である。
●学者を傍に置いて書くべし。知らない表現、誤字脱字を防ぐため。
●簡潔に。
●個人的感情は排すべし。
●人の失敗は書くべからず。
●個人の為に書くのではない。宮廷の為であり、公開すべき。
「公家が日記を書く目的」
宮廷の儀式書を作る為である。
「感想」
久し振りのカルチャ-。この間、興味あるテ-マが無かった。でも再開すると大変。
さて貴人から庶民まで、こんなに日記をつける習慣のある国民はいないといわれているのは知っていたが、それは何故か。識字率の高さも世界一であるが、日本人は記録好きで儀式好きなのであろう。
まして官僚ともなると何から何まで記録にするのを安倍総理は知らなかったな。彼は日記を書かないし、記録もしない。要するに勉強しなかったのだ。トランプと言い何ともアホなリ-ダ-を持ってしまったのだ我々は。