歴史再発見 漢字と日本語の文化史
早稲田大学社会科学総合学術院教授 笹原 宏之
⑥ 130806 つい書いてしまう誤字 (今日の漢字) 専・ ・鬱
昔から漢字の得意な人はいるもので、漢字博士などと呼ばれる人がいるがこういう人でも間違える。
「古代での漢字の扱い」
・「弘法も筆の誤り」の故事の由来。
弘法大師空海が天皇の命で応天門という額を書く事になったが、応の一画(点)を忘れた。これに気づいた空海は筆を投げて点を打った。日本最古の「漢字辞典」を作り、漢字に精通して書の名手の空海でも間違うという意味の故事。
・隋代に始まった官僚登用試験の「科挙」、まず漢字が書けない人はダメ。漢字をきちんと書ける人が栄進した。
楷書が完成した唐の時代に正しい字を決めるための「漢字辞典」が作られ、受験生はこれを勉強した。
・日本でも奈良時代写経所では、誤字・脱字はカウントされて給料から差し引かれた。役人になる試験はまず綺麗に漢字が書けることであった。唐ではこれに正しい字があったが、日本ではそこまでの人材がいなかったから。
・間違えないために1世紀に漢字と共に日本に入ったハンコを使うようになった。但し限られた数の漢字しか使用できないので版木を使って印刷するようになるが(仏典など)、高価なので写本中心。これが様々な誤記、誤字、脱字の原因。
万葉集、古事記、日本書紀の原本は残っていず、写本のみが残っているので、現在も確認作業中。
恋水(×) →涙と解釈していた 変水(○)→実際は若返りの水 恋・変の誤記
「間違いの例」
・井原西鶴 原本を見ると間違い字だらけ
・夏目漱石 専門家の字を常に間違えている。「専門家」は点なし、口なし なのに。この意味分かるかな?
・感動詞のああ 嗚呼 嗚→鳥ではなく烏(からす) 洒落→酒ではなくサンズイ編に西
「漢字は体系的に作られているので、そのル-ルを見つけ出すと覚えやすい」 特に点は微妙である。
・専門 博士 知恵 捕縛 名簿 薄い 捕手 店舗 穂
ル-ル 「音読みにした場合、は行/ば行には点が付く」 これによると
点が付くもの 捕手 店舗 名簿 捕縛 博士 薄い 点が付かないもの 知恵 専門 穂(すい)
・示編(示・ネ) 衣編の使い分け 点のあるなし
示編→神社、信仰に関する言葉 神 祝 祝詞 祈祷
衣編→衣類に関する言葉 袂 袖 裸 被服
「漢字は変化する」
・王 玉 もともと王で両方の意味を表していたが、区別がつきにくいので点を付けて王 玉とした。
・国 旧字体では國 唐の高宗の妃「則天武后」(自ら皇帝となる)漢字をいじった。國を圀とした。後中国では廃止されたが、日本では残った。水戸 徳川光圀
・国 中国では国構えに王であったが、日本人は点が好きで国とした。中国は1950年これを逆輸入した。
よって 日本/中国→ 国 台湾/韓国→ 國
「社会的属性によって誤字が発生する」
・年齢によって使われる字が違う。戦前生まれ
世 卋 この字今は間違い 私もこれを書く
才 二画目をはねる ・今の小学校は漢字に神経質
木 はねたら誤字
女 横─に九の一が出なければならない
・誤字には性差がある
化粧 女は間違えない 男は間違える
・ワープロ/パソコンの使用によって変換ミスの多発 意外 以外
・転換によって書けない漢字の使用 憂鬱