歴史再発見 漢字と日本語の文化史
早稲田大学社会科学総合学術院教授 笹原 宏之
⑨ 130827 職業で特殊化した漢字 (今日の漢字) 頚・辯・ ・など
「作家」
漢字を多く使う職業としては作家が有る。文字だけで森羅万象を表現するので言葉だけでなく文字の使い方、選び方にも工夫をしている。
・谷崎潤一郎 自ら文字の視覚的効果を利用している。 煩い→五月蝿い 明治期に坪内逍遥が既に使用していた。どこかおかしさがあり現実感が有る。
・夏目漱石 でたらめ→出鱈目 秋刀魚→三馬
・北原白秋 薔薇の木に薔薇の花咲く (薔薇二曲 詩) 薔薇にすることで複雑で豪華さを表す
・安西冬枝 てふてふが一匹、韃靼海峡を渡っていった。(春 詩) てふてふと韃靼の文字の対比で効果を出す
・山本有三 文の中にフリガナを使うべきでないとして[路傍の石]を書いた。が、戦後国語委員として常用漢字に魅力の魅を入れなれければ漢字に魅力が無いとして強引に入れた。
・その他 体→身体、躯、 一所懸命→一生懸命(夏目漱石)、一しょう懸命(森鴎外)
様々な社会集団では必ずそこには専門用語が生まれる。それを使うことで理解が深まり一体感が出る。しかし一般の人には音読みではなかなか漢字が浮かんでこない問題がある。漢字を使う日本人は[漢字の二面性]に直面。すなわち
便利さと難解さ。しかし夫々の分野では端的に表現できるので多少難解なのは仕方ないとの考えが支配的。
このように難しい漢字は明治期に近代国家となって積極的に西洋文明を入れ、翻訳語に多い。
「医学」
・虹彩、投薬、鼠徑(哺乳類の下腹部の下肢に接する内側)→調べたが由来不明で江戸時代からの和製漢字
・頚椎、尋常性痤瘡(にきび)、腺(動物の上皮から分化し特有の物質を分泌する器官)→江戸時代の蘭学者が考案した
国字、蛋白(蛋はたまご)
「ある職業の人が伝統や権威を表すために使う漢字」
醫院(医院)、辯護士(弁護士)
[業界用語]
贓物(窃盗など財産に関する罪にあたる行為によって得た財物で、被害者が法律上の回復追求権を持つもの)、
禁錮(刑務所に拘置するだけで所定の作業に服させない刑)、
拘留(自由刑の一種、1日以上30日未満の間、刑事施設に拘置する刑)→業界用語では手拘留という。手篇だから
勾留(被疑者、被告人を拘禁する刑事手続き上の強制処分。未決勾留。→業界用語ではかぎ拘留という。
「略字」 授業の黒板書きで多用されていたが、現在はpower pointなので使われなくなった。
:権→权、門→ ・議→義をカタカナ・慶応→广に「K」、广に「O」 我々世代はよく使うけど。
「変体仮名」
現在使用されている平かなと違う字源または崩し方の仮名。
明治期の小学校令で使わないようにしたが、老舗の意識・もっともらしくするために現在でも使われている。
「その他」
衣装→衣裳・すし→鮓・魚→漢字の下の点を取って、代わりに「大」をつけたもの