歴史再発見 漢字と日本語の文化史      

                      早稲田大学社会科学総合学術院教授 笹原 宏之

 

    130716 日本人の好きな当て字 (今日の漢字) 米・乳・糎 

日本人は漢字が色々な文字の中で格が高いと思っている。それは平仮名、片仮名、ロ-マ字などを併用しているからと。

 

それに比して漢字は歴史も古いし意味も深いと思っているから。漢字がわかるのは教養の印。この意識の中で平仮名、片仮名を使えばいいのに敢えて漢字を使う傾向がある。

 

「ロ-マ字」 

日本人はロ-マ字が好き。ポルトガル人によって室町時代に入って、ついにはイソップ物語/平家物語がロ-マ字で書かれた。江戸時代、薬屋の看板に使われた。

 

「漢字」 

中国から伝来以来、日本人は訓読みを工夫し獲得して以来、中国を離れて漢字は日本人のものとなった。

 

「梵字」 サンスクリット語を表す文字。日本では悉皆文字を使ってきた。

奈良時代に伝わってきたが、今残っているのは仏教関係のみ。卒都婆/五輪塔・・・・ 

しかし日本人は梵字の並び方にヒントを得て、母音に先に並べるアイウエオ、五十音表を考案した。

 梵字とアルファベットは、フェニキア人の創作で、双方ともイミのない表音文字。

 

「当て字の仕方」 中国と日本

(古来中国の貨幣単位)→元       画数が多いので、違う字に変更 

(日本に入った時の貨幣単位)→円   字を生かし圓の画数を少なくした当て字とした

 

「当て字の例」 

 孤悲()   夜這い(呼ぶ→呼ばう  異性を口説く意)   一生懸命(一所懸命)  師走(し果てる、し果つから来ている)

 

「外来語」

戦前の日本では固有名詞は全て漢字で表すとしていた。この為外国の国名、地名は漢字で表記。印度、比、西班牙、伯剌西爾、倫敦、莫斯科、露西亜・・・・)

 

「外来の単位」  米(メ-トル)

センチメ-トル→ 糎  ミリメ-トル→粍  キロメ-トル→粁

 

「小説」  熟字訓→熟字を訓読みすること    これにより雰囲気を盛り上げる 

五月蝿い(うるさい) 私語(ささやき)  他人事(ひとごと)  若い人は読めなくなって「たにんごと」と読む。

 

「翻訳もの」 

明治期の翻訳では初めてのことなので様々な当て字が工夫された。

Romantic→浪漫的  的を考案  club→倶楽部  これは中国が逆輸入

 

「歌謡曲」

運命(さだめ)  とき 40種以上の当て字が使われる 時・一瞬・刻、・・・

 

「植物」 

秋桜子(コスモス)  さだまさしのヒット曲から一般化

 

「日本語の読みの多様性」

もともと文字が無かった国に、漢字・梵字・ロ-マ字が入ってきて、漢字の音読みは漢音・呉音・唐音、また日本人が工夫考案した訓読みがあり、熟時訓という組み合わせの読み方まで多数に読み方が出来上がった。

 

中国では読み方は一つ。

  

ではなぜこういうことになったのか。

・中国・韓国  新しいものが入ると古いものを捨てて新しいものに統一。  上書き保存 

・日本では古いものを使いながらその上に新しいものを載せていく。     別名保存 

・日本では漢字は意味を表し、読み方はどうとでも良い→読み方が多数となる。