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講師紹介
植物のメタポロミクス、バイオテクノロジ-で植物の化学成分をどのように応用していくのかという研究の第一線で活躍している人である。ゲノム解析から始まって、色々な植物を解析して、その中から色々な因子を薬用に応用する研究をしている。
メタボロミクス→植物の細胞の活動によって生じる特異的な分子を網羅的に解析すること。
著書「植物がなぜ薬を作るのか」「植物メタボロミクス」
一回目、二回目の講義で私達が目にする生薬について、どの様な植物から抽出されて、どの様に私達の躰で効果を出しているかを話して貰った。三回目からはその効果の植物成分というのは、植物にとっては、どんな仕組みで生みだしているかを話して貰う。
「植物の三つの戦略」
私達に植物成分は恵みとして与えられているが、植物の側から見たらどうなのか。最近になってこの仕組みが分かるようになってきた。植物の戦略は三つである。
これを考える前に、植物と動物はどこが違うかを考えてみる。一番の違いは、動けるかどうか。
地球46億年、陸上植物5億年の歴史の中で、植物は動かないという選択をした。この中で生き残るための戦略を考えねばならなかった。そして生きるとはどういうことか。
一つ目は自らが生存するために物質の代謝、分解、そしてエネルギ-を取り出して生命を維持するということである。
二つ目は自己を複製して次の世代を作る事。
この二つを満足出来れば生命体として植物であれ、動物であれ生き延びていける。
・同化代謝戦略
生命維持のエネルギ-を得るということを考えると、動物は狩りをしたり、農業をする。植物は同化代謝戦略である。
同化代謝というのは炭酸ガスと太陽エネルギ-と水から、糖とかでんぷん・脂質などを作るのである。光合成である。
そして、これらの生命体は有機体を分解していく中で炭酸ガスが残り、これを排出する。
動物は植物の仕組みの、後ろ半分を行っている。言わば植物からの搾取である。
炭酸ガス→炭酸ガスと循環リサイクルしているのが植物、炭酸ガスを出しているのが動物である。
従属栄養生物である。
・化学防御戦略
動物は外敵に対して動くことで対処できるが植物は動けない。植物は化学成分を作って化学兵器で防御するのである。
毒成分である。植物の化学成分は多い。単離されたもので5万種、未解析物を入れると10万種といわれる。現在では地球上の植物から見ると百万種ともいわれる。
植物の代謝で化学成分を作る段階で一次代謝と二次代謝というのがある。
(一次代謝)最低限生きる為
どの生物も共通して持っている、物質を代謝すること。 例えばでんぷんを代謝してエネルギ-を得ること。
遺伝子の構成からみても、どの生物も持っている特性である。生物が生きるための最低条件である。
(二次代謝)より良く生きる為
ある植物だけが持っている代謝。例えばタバコがニコチン、ケシがアヘン。
ある特異的な生物種のみが持っている遺伝子の構成になっている。これがなぜ存在するのかというと、その植物がその環境で、より良く生きる為に、他の生物に対してより優位に生きていく為である。
例えば捕食者、病虫害、競争相手の植物に対して。
人間は、植物がよりよく生きるために作っているものを、生薬として利用しているのだ。
植物群の中で、ある個体が偶々ある化学物質を作ったために、捕食者や病虫害から守られたので、
その個体が集団の中で生き残っていくのである。
熱帯雨林の様に激しい生存競争の中で生き残った植物には、新しい化学成分が見つかる可能性がある。
例えば
・他の植物の成長を抑えるもの
・ストレスへの抵抗力の強いもの
・塩分への抵抗力
・紫外線 赤紫蘇は表面細胞のアントシアニンで有害な紫外線を吸収している。
・繁殖戦略
「コメント」
植物であれ、動物であれ、全ての生きものは生存競争の中にいる。他の生物、さらには同種の生物との間で。時には親子で。
この為には、固有のパワ-を持たねばならない。人間に置き換えてみればよく理解できること。パワ-が欲しい、生薬を飲もう。