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斉藤和季プロフィル

1977年東京大学薬学部卒 大学院を経て薬学博士。千葉大学教授、理化学研究所。生薬学、
薬用植物や植物成分のゲノム機能科学、バイオテクノロジ-などの研究

著書「植物はなぜ薬をつくるのか」(文春新書)など。

 

2000年頃から薬学研究が変化してきた」

これはゲノム配列が分かってきたことに依る。それまでは暗闇を手探りで歩いていたみたいなことであった。最初にゲノム解析が出来たのは、シロイヌナズナ。

(シロイヌナズナ)

帰化植物で全国に分布する。ロゼット型で花茎は2030cm。花期は4月~6月。自家受粉で果実をつける。発芽から実まで12月と短い。

2000年植物として初めてゲノム解読が終了。ゲノムサイズが小さい事、一世代が2ケ月と短い事、多数の種が採れる、

自家不和合性を持たないことなどから、研究材料として重宝されている。

人類はゲノムが解らない時代から植物の恩恵を貰っていた。生薬の時代から現代までを簡単に話す。

「生薬」

生薬は殆んど植物であるがこれをそのまま、お湯とか水、アルコ-ルで抽出して使うものである。これは中国に始まって日本に入り、現在に至っている。人類始まって以来の使い方である。

東洋では総合的に薬をとらえ、西洋ではセグメント(要素)としてとらえている。このやり方は学問全体へのアプロ-チの仕方の差でもある。

東洋 全体システム主義  患者一人一人を見て、体全体を見る  生薬を組み合わせて使う

西洋 要素還元主義    症状を中心に対処する  モルヒネの様にケシの実の成分を取り出して使う

「日本の医療の変化」

西洋医学一辺倒であったが、1970年代に東洋医学(漢方)も使えるようになった。医学部学習の中で、生薬はコアカリキュラムとなり、必須となっている。

「エキス」エキストラクト
生薬を抽出して、植物成分を乾燥させて残ったものをエキスという。生薬を濃縮したものである。

「チンキ」

生薬をアルコ-ル、水に浸してそのまま使うもの。濃縮した状態である。

「精油」 エッセンシャルオイル

生薬の揮発性の油成分。生薬を水に入れて熱して蒸留する。揮発性の油成分。

「ブシ」

トリカブトの根は毒性が強い。これを蒸留して無毒化する。これをブシという。生薬である。

「アヘン・モルヒネ」 アヘンよりの単離でモルヒネの誕生

ケシの実の熟する前の果実 (ケシ坊主)を傷つけると樹液が出る。これを集めて乾燥させたものをアヘンという。生薬である。モルヒネはドイツのベルシュナ-がアヘンより単離したもの。アヘンの薬理効用の本体である。

そして、これで化学構造が分かったので、同種の新しい薬の開発の足掛かりとなった。

昔の薬学の殆どの部分は、この単離作業であった。

「研究の方向」

私の大学入学の頃より、何故ケシはモルヒネ成分を作るのかという研究が始まった。モルヒネの活性構造、化学成分が分かると、その構造を少しずつ変えて、副作用の少ない、より効き目のあるものを作る努力がなされるようになっていく。

「脳内モルヒネ」

人間の脳の中にもモルヒネ的なものがある。神経伝達物質である。エンドルフィンなどというペプチドである。これを脳内で受容する蛋白質に、モルヒネが作用して鎮痛効果を出すのである。
人間が元々持っていた脳内の鎮痛性のペプチドを受容できる物質構造を持っていたのが、モルヒネであったのだ。

 

「コメント」

 

人間が大昔から持っていた生薬使用の知恵を、今は科学的に確認し追認し、そして発展させているのだ。昔に戻れ、自然に戻れなのだ。