200801更級日記⑭「父の帰京と結婚」
作者29歳の時、4年間の任地(常陸)滞在から父が帰ってきた。宮仕え中。この期間中に結婚しているが、詳しいことが書かれていないので詳細は判然としない。
「朗読1」父が無事に帰ってきて、皆で会ってとても嬉しい。がしかし、老齢になった父が「これで隠遁したい」というのはとても心細いことである。
あづまに下りし親もからうじてのほりて、西山なる所におちつきたれば、そこにみな渡りて見るに、いみじううれしきに、月の明き夜一夜、物語などして、
「かかるよもありけるものをかぎりとて君にわかれし秋はいかにぞ」
といひたれば、いみじく泣きて、
「思ふことかなはずなぞといとひこし命のほども今ぞうれしき」
これぞ別れの門出と、いひ知らせしほどの悲しさよりは、平らかに待ちつけたるうれしさもかぎりなけれど、「人の上にても見しに、老いおとろへて、世に交らひしは、をこがましく見えしかば、われはかくて閉じこもりぬべきぞ」とのみ、のこりなげに世を思ひいふめるに、こころぼそさ耐へず。
「現代語訳」
任地常陸に下っていた父が、やっと帰ってきて、西山にある家に落ち着いた。そこに皆移ってとても嬉しかった。月の明るい晩に色々と話して
「こんなに楽しい時もあるのに、あの時はもう会えないと思って別れたあの秋の悲しかったことよ」と私がいうと、父はひどく泣いて、次のように言った。
「思うことは何一つかなわないと恨んでいたが、命永らえてこうして皆に会えるのはとても嬉しい。」
父が東国に下るときに「これが一生の別れとなろう」といった時の悲しさに比べたら、平穏な再会はこの上もなく嬉しい。
しかしその父が、「年取って世の中であくせくするのは、愚かしく見えるので、私はこのまま引退してしまうべき」というのは、とても心細い事である。
「朗読2」母は出家したので、私が主婦の座に着いた。ぼんやりと過ごしていたら、ある人から宮仕えを勧められて、しぶしぶやってみることにした。まずはお試しで参上。
十月になりて京にうつろふ。
母、尼になりて、同じ家の内なれど、方ことに住みはなれてあり。父はただ、われをおとなに据え、われは世にも出で交わらはず、かげにかくれたららむやうにてゐたるを見るも、頼もしげなく心ぼそくおぼゆるに、きこしめすゆかりある所に、「なにとなくつれづれに心ぼそくてあらむよりは」と召すを、古代の親は宮仕人はいと憂きことなりと思ひて過ぐさするを、「今の世の人は、さのみこそは出でたて、さてもおのづからよきためしもあり。さてもこころみよ」といふ人々ありて、しぶしぶに出だしたてらる。
「現代語訳」
十月に京の屋敷に移る。母が出家して、別棟に住む事になった。父は私を主婦の座に据えて、自分は隠居して世の中に出ようとしない。そんな父を頼もしさが無く、心細く思っていた。そんな時ご縁の有る方より、「何をすることもなくぼんやりしているよりは、何かをしなさい。」と宮仕えを勧められた。昔気質の親は、それは辛い事なので賛成しないと言っていたが、「今の人は誰でも積極的に宮仕えをして、それはいい事にも繋がるよ。そうしなさい。」といわれて、宮仕えをすることになった。
・どうして母が出家したのか、理解できないが、それが当時の風潮か。また父の隠居の方が自然だと思うが。
・勝手気ままな作者に、宮仕えが出来るのか少し不思議。
次に宮仕えの試用期間中の事が書かれているが、講義では省略。要するに家で勝手気ままに過ごした作者が、宮中で当惑している様子が分かる。そして年末にお召しがあって、宮仕えが始まる。
「朗読4」いよいよ宮仕えを始めたが、親は辞めさせて、結婚をさせられた。結婚生活は全く期待はずれで、あきらめるしかない。
かうたち出でぬとならば、さても宮仕への方にもたち馴れ世にまぎれたるも、ねじけがましきおぼえもなきほどは、おのづから人のやうにもおぼしもて七させたマフやうもあらまし。親たちも、いうと心得ず、ほどもなくこめ据ゑつ。さりとて、その有様の、たちまちにきらきらしき勢ひなどあんべいやうもなく、いとよしなかりけるすずろ心にても、ことのほかに違ひぬる有様なりかし。
「幾ちたび水の田芹をつみししかは思ひしことのつゆもかなはぬ」
とばかりひとりごたれてやみぬ。
「現代語訳」
一旦出仕することになれば、変な人間とでも思われなければ、普通に務められていた。しかし親はどういう考えなのか、宮仕えを辞めさせ、結婚させられてしまった。しかし家庭生活は素晴らしいものではなく、いままで考えていたことが空想的で馬鹿馬鹿しい事だとしても、全く期待はずれであった。
「それでも自分なりに一生懸命にやってきたつもりであったが、全く願い事が一つも叶わないのはどういうことであろうか。」と、独り言を言って諦めていた。
・当時の結婚は親が勝手に決めてしまうのか。また、この結婚についての作者の心境、相手の状況が全く書いてないのも不思議。
・作者 33歳、相手 39歳、橘俊通。
「コメント」
再度書くが、52歳になった作者が当時を回想して書いているので、状況が割愛され詳細が良く分からない。作者にとって興味が無い所は、書かれていない。日記ではなく、回想録なのだ。