191228 ㊴「長明と家族」(其の一)家族を捨てる
長明は家族と断絶し、捨てることになる。その事について話す。
説話集「発心集」の話に沿って行く。本文省略し、要約を記載。
●巻1 6話「高野の南筑紫上人、出家登山の事」 高野山に登った筑紫出身の上人の話
領地が沢山あって、幸せだと思っている男がいた。ある時、豊かに実った稲を見て、ふと次のように思った。この国には色々な人がいるが、こんなに領地をもっていて幸せな人はいない。しかしこれが、一体何になるのだろうか。朝に栄えていた家が夕方には衰える。死んでしまえば蓄えたものも何の力になるのか。無情の心を感じて出家しようと決心した。家に戻ったら家族がいて、妨げられるので、今から見知らぬ所へ、仏道修行にと思い、家にも戻らずそのまま出発した。
この時、通りすがりの人が、男の気配を感じて、家の者に知らせた。家中大騒ぎになり、12~13歳の娘が追いかけて来て、「私たちを捨てて何処へ行くのですか」と止めようとする。男は刀を抜いて、自分の髪の毛を切ってしまう。そうして、高野山に行って出家し仏道修行に入った。
家族は男を探したが、後になって高野山にいるのか分かった。娘は、高野山の麓で尼になって、男の世話をしたという。男は高徳の僧となり、維摩居士(在家の仏教者)と呼ばれた。
●巻3 6話「或る禅師、補陀落山に詣づる事 賀東上人の事」
讃岐の三位という男がいて、かねてより極楽往生を願っていた。この世は思うとおりに行かない。それなりの修行はしているが、最後に乱れてしまっては、極楽に行けないかもしれない、それならまだしっかりしている内に、命を終えたいと思った。生きている内に、補陀落山に行こうと思った。土佐に行って、渡海の舟の準備をした。北風の強い日を選んで出発した。妻子もいたが、男の決心が固いので諦めた。
●巻7 13話「斎所権介成清の子、高野に住む事」
尾張の国に斎所の権介成清という男がいて、裕福であった。東大寺の再建大仏の開眼供養に父母と共に見物に。大仏のすばらしさに感激して、仏道に入りたいと思った。男は単身奈良に向かう。再建のリ-ダ-の重源に会って、出家したいと願う。重源は高野山の人里離れた寺に紹介する。ここで男は熱心に修行する。
家族はあちこち探したが情報はない。暫くして男が高野山にいることを聞く。父母は男に手紙を書いて次のように言う。「お前の考えが判らなくはない。尾張にも寺があるので、尾張で修業しなさい。」そして父母は高野山に出かけ、天野という所にいる男を訪ね、再会する。男は山を下りて、ぼろぼろの服を着て、父母に会う。そして言う「高野山に入った以上、二度と出ようとは思っていない。黙って家を出たのは気掛りであったので、今日は会いに出てきた。もう二度とは会わない。もし私に会いたければ、仏を拝んでください。」と言って去った。妻もいたが会う勇気が無くて、隙間から覗いて泣いた。
長明は家族との別れを、発心集の中で色々と書いている。
「コメント」
理由は様々であるが、昔も今も男が黙って家族を捨てて、行方知れずになることは多い。
これを情愛とか、倫理とか、道徳で論じても仕方ない。裕福で恵まれた人に起きると、周囲には全く理解できない。長明はこれを例示することで、自分の隠遁を正当化しようとしているのか。