科学と人間「太陽系外の惑星を探す」 井田 茂(東京工業大学 ELSI副所長・教授)
160826⑧「影を見張って系外惑星をさがす」
視線速度法で惑星が多数発見されて、段々と分布が分かるようになってくる一方、ホット・ジュピタ-やエキセントリック・
ジュピタ-を説明する様々な理論モデルが提案された。しかしなかなかそれでうまく説明できたかどうか疑問である。
というのは、惑星形成はμから数万kmの半径を持つ惑星になるまでを追うので、その途中に多数の物理が絡むみ、観測結果との整合性がなかなか取れなかったから。
「惑星分布生成モデル」
そこで講師とカリフォルニア大学のダグラス・リンとで惑星の生成モデルを作ることにした。分からない所は分からないと
して作成。これは天気予報をするプログラムと似た考えである。当初天気予報は当たらない、そこで徐々にわからない所を詰めて正確な予報に近付けていくやり方である。そうすると段々観測デ-タと理論がマッチしていく。
「系外惑星の中心星(恒星)の食を観測する トランジット法」
そうしている内にこの方法が考え出された。惑星の軌道面が我々の視線方向とほぼ一致する場合、惑星が中心星の前に来た時にその一部を隠す「食」が起きる。その「食」の間に、一時的に中心星からの光りが弱くなるのを観測すればそこに惑星があることが分かるのである。これが「通過」「横切る」という意味で「トランジット法」と呼ばれる。
この「食」は惑星の公転周期で起きるのである。従来分光観察で恒星の色の変化をとらえるという「視線速度法」に
比べて、明るさの変化を捕らえるだけなので、観測は極めて簡単でアマチュアでも可能。
・観測が簡単
例えば木星の断面積は太陽の1/100なので、食が起きると1%部分の明るさが減じる。観測としては容易なのである。
しかし太陽系の木星の周期は12年、土星は30年→12年、30年観測して一回食が起きるが、ホット・ジュピタ-の様な惑星は中心星の傍で数日の周期なので簡単に実行可能なのである。
・視線速度法では質量(重さ)が、トランジット法では断面積が分かるので密度が推測できる。
・観測が期待されたが成果はなかなか上がらなかった。
この理由は、惑星の揺らぎと中心星の黒点の存在、連星(二つの恒星)重なり・・に妨げられた。
「すばる望遠鏡の活躍」
視線速度法とトランジット法の併用では、惑星の密度が推定でき、組成まで分かるのだが、両法とも暗い惑星には対応が難しい。そこで大望遠鏡を使って明るい恒星のホット・ジュピタ-に特化して日米共同で探そうという計画が出てきた。
これをプランしたのは若手科学者たちであった。口径8.2mのすばる望遠鏡(日本)と10mのケック望遠鏡(米)である。
これで系外惑星の発見と「食」の観察を目的とした。そして日米で20個のホット・ジュピタ-を発見した。そこで日本がまず見つけた系外惑星の最初と次の物に、見事に「食」を観測した。大成功であった。
この様に系外惑星の分野では、常に各国の若手が活躍し、現在でも系外惑星研究は若手にとってまだ手つかずの宝の山
なのである。
「コメント」
系外惑星探索が、天文科学の中でどの程度の位置を占めるのかは門外漢の私には分からないけれども、聞いている
だけでもワクワクするものであることは理解できる。伝統のある各国の天文学界で若手が既成概念から脱却して活躍
できる分野なのであろうことも推察できる。
そうやって見えない暗い宇宙の先を熱意をもって毎日研究している人々がいることを想像する。