科学と人間「地球と生命の46億年史」       丸山 茂徳(東京工業大学 地球生命研究所特命教授)

 1600603⑨生命進化の新理論

 

これまでの生命進化論のまとめをする。Key wordは茎進化・冠進化・大量絶滅である。 

「ダーウィンの適応進化論」以降 

ダ-ウィンは動植物の種類と分布、そして品種改良の二つを組み合わせて、適応進化の考えを提案した。変化する自然環境に適応する形で、生物は姿形、機能を変化させていく自然淘汰説・適応進化説である。その後は大量絶滅を、進化の加速ととらえる「断続平衡説」、分子生物学の発展によって「中立進化説」、21世紀になると、ゲノム生物学が急速に

発展し、生物進化の系統樹が次々と提案された。歴史の中で何度も生物が大量絶滅するという事が分かってきた。→

大量絶滅が進化を加速するという事実。

ダ-ウィンの時代に絶滅があったことを主張する人もいたが、ダ-ウィンは認めなかった。近年の化石研究の進化がこれを証明したのである。

「生命進化の新理論」

最近は全ての生物に於いてゲノム解読が出来るようになった。生きている生物のゲノムの記録から過去を読むことが可能になったのである。この結果、進化の新しい理論を作ることが可能になった。

<茎進化>

これのKey wordは局所絶滅。この原因は原爆に似た大爆発が地球上の一点で起きることである。これによって生命の

局所絶滅が起きる。これによって遺伝子の突然変異が発生し、そこに新しい種が誕生することが茎進化である。

現在茎進化が進行していると考えられる場所は

 ・アフリカの大地溝帯 地溝帯→大陸が分裂する時に形成される帯状の陥没地帯

 ・アメリカ西部のデスバレ-

 ・ガラパゴス諸島

そこではハイア-ルマグマと呼ばれる放射性元素が濃集したマグマが噴出し、その結果動植物の進化が進んでいる。 

我々人類もアフリカの大地溝帯で生まれた。

ハイア-ルマグマは放射性元素を多く含んでいるので、遺伝子変化によって突然変異が発生する。又中心部では大量

被ばくで、生物の絶滅が発生する。結果的に生き残った変異した種によって進化が進むというのが茎進化の本質である。

茎進化の例として人類の脳容積の進化がある。誕生当初400ccの脳容積は1800ccと、3度に亘って不連続に巨大化している。その場所はアフリカの大地溝帯。

<冠進化> 

これは明瞭な新種誕生を象徴する茎進化と違い、ある時期に一気に種類が分化する進化である。王様の冠のような進化系統樹を示すので冠進化と呼ばれている。大陸古地理学とゲノム解析から、冠進化は大陸衝突によって進行したことが分かった。

一つの例を示す。

カンブリア紀前期、大陸は一つであったが割れて移動する。他の大陸に衝突して、それぞれの大陸の生物は交雑する。

その結果爆発的に新種が発生する。これが冠進化である。現在、多種多様な生物がいる場所は、インド大陸北部、

東南部、インドシナ半島でウォーレス線南方生物の北限。ここが冠進化の最前線である。5千万年経つと、オ-ストラリアは日本と衝突する。ここで冠進化が発生する。

 ・ウォ-レス線 生物地理学に於いて、東洋区とオ-ストラリア区との生物の境界線。ボルネオとセレベス、バリと

   ロンボク海峡の間に引かれた。

<種の大量絶滅による進化の加速>

これが進化の形態の三つ目のバタ-ンである。大量絶滅は地球規模で、短期間に多種類の生物を対象に起きる。

生き残った生物は、空白地帯で適応進化を起こし進化を加速する。大量絶滅を起こす原因については諸説あるが、

暗黒星雲と太陽系の遭遇、そして新星爆発(スターバ-スト)があげられている。暗黒星雲と遭遇すると高エネルギ-粒子によって、雲が増加し寒冷化が起きる。スターバ-ストが起きると、オゾン層が破壊され生物は生存を脅かされる。

大量絶滅はこの様な宇宙空間の変動によるものである。これに生き残った生物は、新たな生態系を作り上げていく。

良く知られているのは、中生代の終りの恐竜の絶滅。メキシコユカタン半島に落ちた隕石による環境変化といわれてきたが、最近は暗黒星雲との衝突であるという説が有力である。

「まとめ」

新しい進化論は、地球史の記録を宇宙変動とゲノム解析での条件を総合化して作られている。まず大陸が分裂する時に、茎進化が起き、大陸の移動・衝突によって冠進化が起き、宇宙に原因のある大量絶滅によって新たな生態系の

誕生。ダ-ウィンの進化論は、徐々に環境に適応して進化していくと言うが、主因は全地球的・全宇宙的なのである。

 

「コメント」

このシリ-ズで、一番分かり易く説得性のある話であった。こうでなくては。でもこの講師に私が慣れたという事か?

又ダ-ウィンの進化論は当時としては画期的であるが、限界でもあったろう。宇宙物理学と生物学の進歩がこの様に新説を作り上げていくというのは理解できた。今後の進展が楽しみ。