科学と人間①植物の不思議なパワ- 甲南大学教授 田中修
150515⑦季節や旬を越える力
(蕾形成の仕組み)
植物に季節や旬を越えさせるためには植物の力を利用しなければならない。草花や花木の花の季節は決まっている。野菜や果物の旬も決まっている。これを決めていくのは何だろう。これは発芽の温度、そして芽生えが成長して行く時の湿度、そして芽生えがやがて蕾を形成し花を咲かせ結実するという生涯を送る。この過程の中で一番大事なことは蕾の形成である。蕾を形成し花を咲かせることによって栽培植物の価値は大きく変化する。例えば葉や芽を食べるもの(オオバ・小松菜…)これは蕾が出来て花が咲くと葉や根というのは価値が落ちてしまう。それは花が咲くと種子を作らねばならないので植物は葉や根に持っている栄養を種子に送り込むからである。それに対して花を楽しんだりあるいは果実を目的に栽培されている植物は蕾が出来て、花が咲いて初めて価値が生まれる。
という事は植物に季節や旬を越えていく力を発揮させるためには、植物が蕾を形成する仕組みを知らねばならない。
(菊の仕組み)
季節を越えて咲く花の代表は菊。春夏秋冬、祝儀/不祝儀に関わらず必要とされ、日本人の心の花とも言われる。本来の旬は秋。
何故秋に咲くのだろうか。これを考えるときに植物は花を咲かせると種を作るので、何故秋に種を作るのかと考えた方が分かり易い。種子の役割はいくつかあるが、その中で最も大事なことは、都合の悪い環境に耐えるという事。例えば2千年前の弥生蓮(大賀蓮)の例でも分かる。
毎年育つ植物にとって都合の悪い環境とはなんだろう。それは寒さ・暑さ。このことから何故菊は秋に花を咲かせるのか考えてみよう。
・何故 秋になると次に寒さが来ることを知っているのか?→夜の長さを測っているから。
・夜の長さを測れば、冬の寒さの到来が分かるのか?→分かる
最も冬らしい長い夜は冬至(12月下旬) 最も寒い時期(2月)→夜の長さの変化は、気温の変化を2ヶ月先取りしている。
このことを証明する実験 同じ菊の苗を2本、電燈を付けた所で育てる
一方だけ夕方早くから、翌朝遅くまで箱で囲い、長い夜を与える。数週間で蕾を付け、花を咲かせる。
もう一方は通常の光で育てる。蕾もつかないし花も咲かない。
このことから植物は夜の長さに反応して花を咲かせることが分かる、こうして蕾形成の仕組みが分かると菊の花を、季節を越えて咲かせることが出来る事になる。電照栽培がこれである。
電照菊 正月用
11月中旬まで電燈照明をして蕾を作らせない。
11月中旬に電燈照明を消して長い夜を与える→正月前に開花
青ジソ 一年中出回っている 香りの成分 ペリルアルデヒド
これは長い夜を与えないことで生産している。これも電照栽培。
明るくして蕾を付けさせないで、一年中緑の葉を付けさせている。
トマト 一年中販売されている
電照栽培ではない
トマトは夜の長さに関わらず、成長すれば花を咲かせるという性質を持っている。しかし受粉しなければ実はつかない。
ここで、花が咲いたら温室にセイヨウマルハナバチを放す。これは外来種なので扱いは面倒。
もう一つの方法は、オ-キシンという物質を使う。このオ-キシンは水溶液にして散布。この物質は花粉が付かなくとも実を
大きくする性質を持っている。この場合は種無しトマトになる。
次の方法は品種改良→単為結果性品種(植物において、受精が行われずに子房壁や花床が肥大して果実を形成すること)
この果実は種無しである。
植物工場
最近、植物工場という話題が出てきた。ここでは、レタス・サラダ菜・カイワレ大根・ハ-プ類などが作られている。イチゴはテスト中。
工場の特徴は栽培環境が制御されている事。光の強さ・温度・湿度・水・肥料・CO2濃度。
気象条件が制御されるので天候に左右されない。
土を使わないので清潔。病原菌が入らないし虫害もないので農薬不要。
光源は、太陽光・白熱光・蛍光灯・発光ダイオ-ド
発光ダイオ-ドは、様々な色の光を出せるので、光合成に必要な色の光を使う事が可能。(赤と青)
それぞれの植物に必要とされる光を調整できるので、無駄が出ないし成長に効果的。
この研究がされていて、今後の拡大が期待されている。
植物の力を知ることにより、私たちの栽培技術は飛躍的に進歩していく。
「コメント」
・最近の野菜は、美味くないというのは定説。これは旬がない事に尽きる。農業がこうなってしまったので、自分で作って食うしかない。
・我々世代は、露地栽培の旬の味を覚えているが、そうでない人は気の毒。うまさを知らないので、現状に不満はない。
知らないという事ぐらい怖いことはないという例の一つ
・こんなことを言えるのも、自分で家庭菜園を始めたからだ。書いておかないと、突っ込まれそう。