科学と人間「AI(人工知能)の現状と展望」 KDDI総合研究所 小林 雅一
180504⑤「人工知能に命を託せるか クリティカルな分野に進出するA」
今日は内容的には、人工知能の脅威論。具体的には医療とか軍事とか重要なクリティカルな分野に進出する人工知能について話す。
ここ数年で人工知能は世界的なブ-ムになってきた。良い面(利便性を高める)とか、悪い面に注目が集まっている。これはAI脅威論である。これは次の二つである。
「AIが人類の知能を凌駕する」
●シンギュラリティ 技術的特異点 2045年問題
未来学上の概念。指数関数的に高度化する人工知能により、人類に代わって人工知能が自動的に進化していく。
それによって人工知能が人類を支配し滅ぼす時が来るという仮説。2012年以降、ディ-プラ-ニングの爆発的な普及で、2045年頃に到達するとの説である。2045年問題とも言われる。
・ホーキンス博士
先日亡くなったが有名なイギリスの宇宙物理学者スティ-ブン・ホーキンス博士は「AIの発明は人類史上最大の出来事。だが最後の出来事になってしまうかもしれない」→AIが人類を滅ぼすかもしれないとの意。
・イ-ロン・マスク テスラ-モ-タ-ズ(電気自動車メ-カ-)創設者
「AIにはかなり慎重に取り組む必要がある。結果的には悪魔を呼び出していることになるかも知れない」
・AIをテーマにしたハリウッド映画
あるAI技術者が死に瀕して、自分の意識・精神・知識をサイバ-空間に保存して一種のAI となって不死になる話。
又主人公の男が、進化したアシスタントロボットに恋をしてしまう話。
・ボードゲ-ム(囲碁・将棋・チェス等)で人工知能が勝利
今迄はこの種のゲ-ムは人間の知能を示すゲ-ムであったが、人工知能が圧倒。AIが人類を打ち負かすという、ある種象徴的な出来事として認識された。
この様な未来予測はレイ・カ-ツワイル(米の未来思想家で発明家)により唱えられた。ゴ-ドン・ムーア(インテルの創業者)は、同じようなことを集積回路からなるCPU(コンピュ-タ-の中枢部分、中央演算装置→Central Processing Unit→コンピュ-タ-の性能を示す)、これの能力は2年で2倍になるとか、指数級数的に増加する。そして2045年頃には、人類の知的能力を凌駕するとした。
●シンギュラリティ-への異論
・ムーアの説のシリコン集積回路の性能向上には物理的限界があるという見方。しかし別の素材を
使えばこの限界は突破できるとの説もある。
・カ-ツワイルは発明家としては有能であり、シンセサイザ-・光学読み取り機(SCAN)など。しかし
未来予想家としての彼には異論を持つ人が多い。
・生物としての人間の知性のメカニズムはまだ解明されていない為、単にCPUの集積度、つまりムーアの法則だけで説明できないとするのが、多くの脳科学者・AI研究者の考えである。
●AIの歴史を見ても、過大評価された時代と過小評価された時代を繰り返している。
「過大評価の例」 1950年代 AIのバブル期 下の予測は全く現在でも実現できていない。
・フランク・ロ-ゼンブラッド(米の心理学者、ニューラルネット開拓者の一人)
彼はいった。人間のように考えることの出来る機械は、10万ドルと数年の時間で作ることが出来る。
・ジョン・マッカ-シ-(米の計算機学者で人工知能という言葉の創始者) Artificial Intelligence
人間と同じレベルの知性を具えた人工知能は後10年で実現できる。
「雇用破壊論」 AIの進化は人間の雇用を奪う
・エリック・ブリニョルソンとアンドリュ-・マカフィ-の著書「機械との競争」2011年
「AIが人間の領域を侵食することで、特に中間層の雇用が減り、残る雇用は高所得を得られる創造的なものと、低賃金の肉体労働に二極化する。」
この時代はリーマンショックから回復してきた時代であるが、雇用は回復しなかった。これは人間がAIとの競争に負け始めているからであるとした。
・オックスフォ-ド大のマイケル・A・オズボ-ンとカール・ベネディクト・フライの「未来の雇用」 2013年
「10年後には現存する職種の50%が、AIに奪われる」
メディアによってセンセ-ショナルに取り上げられ、日本からの取材が多かったとされる。
しかし、現実にAIが成し遂げているのは「バタ-ン認識」の分野だけである。或いは音声認識。
音声も波形なので、バタ-ン認識の一種である。
人間は自然にこの事を行っているが、人間以上に高い精度と速度でAIが認識できるようになった。
「実用例」
・コンビニでの売上分析 商品別・季節別・時間別
要するにAIによって代替可能な職業と云うのは、このバタ-ン認識に立脚している職業である。
タクシ-運転手・与信審査・投資会社のファンドマネ-ジャ-・各種事務員
・医療における画像診断(MRI・CT・・・)
病変の診断もバタ-ン認識である。
「まとめ」
・しかし、人間の知能はバタ-ン認識だけではない。洞察力・外部からは分からない内側の仕組みの推測・表現力・最も人間らしいコミュニケ-ション能力、人への配慮・共感・感受性・・・・。こういった
ことは、現在のAIでは処理できない。バタ-ン認識に依存した職業は逐次代替されるが、他は大丈夫である。
・シンギュラリティとか、雇用破壊は言われているようなレベルではない。
「今後のAI利用の変化」
しかし現在はAIが社会の中枢に組み込まれようとしている。今までの所は、いわば軽い用途に使われ生活を便利にしている。例えば家電製品などである。然し現在研究されているのは重い用途。
自動車自動運転・医療・兵器・・・。
次はこれらの用途の問題点を見てみる。
「コメント」
いよいよ、命をAIに任せる時代が来るのか。病院に行ったら「はい、病状は肺がん。このままでは余命30日、こういう治療をすれば2年。チョイスは三択です。
お大事に」とロボットにいわれるのかな。