200613更級日記(7)「源氏物語を読み耽る」

コロナ非常時代宣言の中で、新規放送は中断していたが、今日から再開する。

前回までは物語を愛する少女が東海道を旅して上京したこと、都への到着後は継母との生き別れ、人々との死に別れがあったことを放した。今回は作者が念願の源氏物語を全巻手の入れ物狩を読む。朝から晩まで読み耽るが、それでも読み飽きない。物語に憧れを胸に上京してきた少女は大きな夢を、そして源氏物語によって心の痛手を乗り越えていく。源氏物語を読んで、大きな苦しみを乗り越えたとか、自分の人生が大きく変わったという体験をした人は少なくないだろう。紫式部と同時代に生まれた菅原孝標女もその様な源氏体験をした一人であった。

朗読①現代語訳  源氏物語全巻を叔母に貰う。

その春、世の中は疫病の流行で大変であった。上総の松里の渡で月の光に美しく照らされていたあの乳母も亡くなった。どうしようもなく悲しくて、物語も読みたくなくなった。泣いてばかりいて、外を眺めると桜の花が散り乱れている。

来年の春は又美しい花を見せてくれるというのに、乳母とはもう会えない。とても恋しい。

また侍従の大納言藤原行成様の姫様も亡くなったとか。上京の時、「これを手本にしなさい」と言って、手蹟を下さって、

「さよふけてねざめざりせば」と拾遺集の歌なぞ書いて下さったことを思い出す。

このように思い悩みふさぎ込んでいるばかりいると、私を慰めようと、母が物語など見せてくれたので、自然と慰められていった。「源氏物語」の紫の上に関係した部分を見て、続きを見たいけれど、人に相談もできない。誰も都に慣れていない頃だから、物語など見付けてくれようにもない。

大変にもどかしく、源氏物語、一の巻から全部見せて下さい。と心の内に祈る。

叔母が田舎から上京したので訪ねた所、「かわいらしく成長しましたね。読みたがっているというものを差し上げましょう」

と源氏物語五〇余巻、「伊勢物語」「とわきみ」「せり河」「しらら」「あさうづ」などという物語も一緒に貰う。なんと嬉しい事だろう。源氏物語を一の巻から、人に邪魔されず見る心地は、后の位もこれに比べたら何だろうと思うくらいだ。

昼は一日中、夜は灯をともして読んでばかりいる。物語の事で心はいっぱいで、今は器量が悪いけど、年頃になると

夕顔や浮舟のようになれると、他愛もないことを思っていたのである。

 

ここには作者の様々な思いが込められている。まず作者が帰京した翌年に天然痘の大流行。多くの人が死んで、作者はふさぎ込む。母は元気を付けようと、物語を手に入れてくれる。その中に源氏物語が一冊入っていた。「若紫の巻」

続きを見たく思っている所に、叔母が思いがけなく全巻をくれる。源氏物語五〇余巻、伊勢物語、せり河、しらら、あさうづなどという物語まで一緒に。貰って帰る心地の嬉しい事。

 

こんなことを考えていた14歳であった。源氏物語には二つのタイプのヒロインがいる。

「夕顔・浮舟タイプ」

運命に翻弄されながら、男を翻弄するタイプ。男との恋愛関係に、生きた証を残そうとする。

「明石タイプ」

権力・地位・経済力を獲得しようとするタイプ。作者はどうも後者ではないか。これを例示するのが、文中によく出てくる

夢のお告げてある。

「朗読」② 現代語訳 我が家の庭・六角堂の鑓水

庭を見ていると花橘が咲いている、源氏物語の場面を思い出す。

「時ならずふる雪かとぞながめまし花たちばなのらざりせば」作者作

物語をことだけを心にかけていると、夢を見る。「天照大神」を信じなさいという。しかし何とも思わないで過ごした。

 

「コメント」

 

思いがけず、源氏物語を貰って大喜びで、何もかも忘れて読み耽っている作者の姿。こちらまで嬉しくなってしまう。コロナの非常時代宣言による放送の中断、私の長期入院、その後の心身の絶不調で、この記録も中断。これではならじと勇猛心で再開。辛いが何とかキャッチアップしよう。