200208 ㊺「長明の執着と妄念(其の二)臨終時の悪念
発心集を中心に、執着の例を見てみよう。
巻8 8話 老尼、死の後 橘の虫と為る事
ある僧の庭に大きな橘の木があった。実が沢山なって、味もいいので大事にしていた。隣に高齢の尼がいた。重病で物が食べられない。橘の実を見て「あれを食べたい」と言ったので、家人が隣の僧に「病人が食べたいと言っている」と言った。しかし僧は無情にも、一つもくれなかった。高齢の尼は
「許しがたい、二つ三つしか食べないのに。私は極楽に行くのを願っていたが、こんな事があったので、極楽に行くことを止めた。あの橘を食い尽くす虫になってやる」と言って死んだ。
僧はこの事を知らず、実を食べようとすると全ての実に虫が入っていた。毎年そうなったので、諦めて木を切り倒した。
巻8 9話 四条の宮半物、人を呪詛して乞食となる事
高齢の女の乞食がいた。どうしてこうなったかを語った。
私は四条の宮に勤めていた女官であったが、付き合っていた男が「受領となって地方に行くので、
一緒に行こう」と言った。
私は勤めを辞め、色々と餞別も貰った。出発の日になったが、約束の迎えに来ない。尋ねると、男は既に出発してしまっていたことが分かった。出発の前日、正妻が「私を置いて、誰と一緒に行くつもり」と言ったので、やむなく男は、妻と一緒に出発したのだ。置き去りにされた女は、憤った。その日から、女は精進潔斎をして、貴船明神に百夜参りをして祈った。
「あの女(正妻)を殺してほしい。その願いを聞いてもらえれば、命も要らないし、乞食になってもいい」
受領とその妻は、任地に着いた。妻が風呂に入ると、天井から人の足が下りてきたが、妻以外の人には見えない。妻は恐れ驚き、風呂から出たが、一日もせずに死んだ。この話が京に伝わった。女は「願いを貴船明神は聞いてくれた。喜びは言い尽くせない。」そうして、女は乞食となったのであった。
巻2 5話 仙命上人の事 並びに覚尊上人の事
仙命上人は欲のない人で、人が欲しいというと何でもあげ、ついには家の床板まであげてしまった。友人が来て、床の穴に落ちて「これは何事だ、嫌なことだ」と言った。上人は「お前は情けない奴だ。堕ちたら死ぬかもしれないので、最後の言葉は南無阿弥陀仏と言うべきである。死ぬ前の言葉は
大事なのだ。」と言った。
巻7 5話 賢き博士の事 吉田斎宮の事
或る博士が臨終の時、得意の漢詩の事ばかり、思い悩んでいた。これを見ていた善智識(教えを説いて仏道へ導いてくれる人)が、「貴方は漢学者として素晴らしい作品を作ってきた。そうだったら、極楽がどんなに美しい所なのかを、思い浮かべたらどうでしょうか。」と説いた。博士は極楽を漢詩にしながら、死んだ。
雑念や妄念を抑えて、きれいで爽やかな気持ちで、臨終を迎えさせるのが善智識の働きがあるのだ。数寄と言う事を、思い浮かべながら、往生することが大事である。
「コメント」
講師が毎回、内容のテ-マを設けるが、どうもぴったりしない。却って当方が、思い悩む。
方丈記だけではなく、長明の作品を勉強しているのだと考えることにする。仏教説話集「発心集」が多いが。それにしても、空恐ろしい話の連続。「日本霊異記」ばり。