科学と人間「太陽系外の惑星を探す」 井田 茂(東京工業大学 ELSI副所長・教授)
1600819⑦「エキセントリック・ジュピタ-の発見」
前回はホットジュピタ-と呼ばれる系外惑星が発見された経緯と、更にこれが引き起こした大きなインパクトを話した。
今日はこれに続いて見つかったエキセントリック・ジュピタ-と呼ばれる奇妙な惑星の話をする。
「ホット・ジュピタ-発見の影響」
一旦ホット・ジュピタ-が発見されると、今までの常識が覆ってしまった訳で、太陽系巨大ガス惑星(木星・土星)は中心星(太陽)より離れた所をゆっくり回っている。それを説明する理論モデルもあった。しかし最初に発見された系外惑星は、
中心星を4日で公転する巨大惑星であった。それまで惑星は今現在の軌道で出来てずっとそこにあるという考えであったが、形成の理屈が付かないので別の所で形成されて動いたのではとの見方も出てきた。実際に我々の太陽系というのは、コンピュ-タ-でシミュレ-ションしても、非常に安定で惑星の軌道は変化することなく安定している。
この定式が完全にひっくり返ってしまったのである。
「エキセントリック・ジュピタ-の発見」
先ずはホット・ジュピタ-が見つかったが、後は次々と軌道が歪んだエキセントリック・ジュピタ-が発見された。そもそも
軌道が歪んでいる、偏心している、中心がズレている事を天文用語でエキセントリックという。これに奇妙なという意味も込めてエキセントリック・ジュピタ-と言われている。しかし発見される巨大ガス惑星の半分は歪んだ軌道を持っている
ので、多数派であり、いわゆるエキセントリックではない。
・系外惑星発見の歴史
1995年 1個、1996年 6個、2003年 100個、2010年 500個→現在累計3千個以上
最初に発見したのは異分野のスイス・チ-ムであったが、それからは本職のプラネットハンタ-の出番で、中心的存在は
カリフォルニア・チームのジェフ・マ-シ-。 最初の発見者スイス・チ-ムは5年後に新しい観測機器で再登場する。
・日本の情況
発見1年半後に帰国した。日本で系外惑星研究を大いにやろうと帰国したが、国内はシ-ンとしていた。
多くの天文学者は「そんなニュ-スはあったが、まだ十分に確認されていない」。そもそも「そんな話あったの」という
人も多くて、系外惑星観測をやっている人は一人もいなかった。
日本は、太陽系形成の標準モデルとなった「京都モデル」など、理論面では伝統があったが、系外惑星観測レースの
スタートダッシュには完全に乗り遅れた。口径8m以上の大望遠鏡を独自に持っているのは日本とアメリカだけなのに。
日本で本格的に系外惑星探索を始めたのは、例によって若者・大学院生。しかしその人は周囲の雑音に大変。
「ハヤリ物をやってどうする。もっと堅実な研究をしろ。」「そんなことをやったら学位も取れないぞ」・・・・。
完全に出遅れていたので普通にやっても追いつかない。世界がやらないものを考え、赤色巨星の周りの惑星探査と
した。
赤色巨星とは太陽(主系列段階)から進化して(老化して)膨張し赤色に輝く恒星。微妙なゆらぎを持っていて、
ドップラ-効果を使っての観測には不向きなのである。しかし次々と発見していった。このテ-タは恒星(太陽)の
進化・老化によるその惑星系の運命を知るためには重要なものである。
「エキセントリック・ジュピタ-形成の理論モデル」
エキセントリック・ジュピタ-の形成とその運動の理論モデルの研究が求められた。
太陽系では重い惑星ほど円に近い軌道を描いている。軽いものは他の惑星の影響を受けて多少歪んでいる。
小さい天体、箒星などは大きくゆがんだ軌道となっている。お互い干渉し合うと重いものは動かず軽いものは
影響されて歪むのは道理である。ところが、系外惑星では道理ではなかった。重い巨大惑星の軌道が歪んでいる
のである。
二つの考えが出てきた。
イ)出来た時から歪んでいた
ロ)最初は太陽系の木星・土星の様に円軌道であったが、何かの理由で歪んでしまった。
当初はイ)が言われていたが、次第にロ)に移っていく。
「太陽系は安定なのか」 天文力学の伝統的な問題
太陽に加えて惑星が3個以上あると、惑星間の重力の影響による惑星軌道の変化は複雑で予測できない。
ある条件でコンピュ-タ-計算してもいずれ不安定になっていくという結果である。しかしそれにはある程度の
時間が掛かり、太陽の寿命より長いという結果。当面は安定とされている。これには太陽系形成の仕方によるもの
である。
「他の惑星系も安定なのか」
太陽系と同じように全て安定化というとそうではない。
<ジャンピング・ジュピタ-> 飛び跳ねる木星
カ-ネギ-研究所のチェンバ-スが奇妙なことを発見した。
「惑星の軌道がどういう条件であっても、いつかは不安定になる。太陽系も例外ではない。しかしその不安定がやって
くるのには規則性があって、軌道間隔が短いほど、惑星質量が大きいほど早くなる。」
これでエキセントリック・ジュピタ-を説明できるのではとなった。
軌道間隔が短く、質量の大きい巨大ガス惑星の場合、早い段階で軌道不安定が起こる。惑星同士の大接近で、
ある惑星は惑星外に飛び出したりする。その結果残った巨大惑星感は安定な軌道になる。しかし大きく歪んだ軌道と
なる。
これがエキセントリック・ジュピタ-なのではないか。これが「ジャンピング・ジュピタ-」と呼ばれている。
又巨大惑星同士の交差で、その内の一つが内側に跳ね飛ばされて、ホット・ジュピタ-となったという説もある。
この時期には次々と発見される系外惑星の存在とその形成を説明する理論・モデルが沢山発表された。又、今までは
常識外れとして無視された過去のモデルの復活もあった。:研究者としては楽しい時間であった。
「コメント」
講師は国内での研究を中断して、留学する人なのである意味、自由人。まさにプラネットハンタ-向きであろうから
既成の体制ではそれなりのご苦労もあったのでは。それでも楽しい研究生活のように見受けられる。
ハンティングは楽しいけど、それに至るまでの勉強は大変?
高校くらいで目覚めればやってみたかったな。