科学と人間①「地球と生命の46億年史」 丸山 茂徳(東京工業大学 地球生命研究所特命教授)
160617⑪宇宙に生物はいるか~アストロバイオロジ-
「宇宙に生物はいるか」という究極の問いに答えるには、最近はアストロバイオロジ-(宇宙生物学)が出来てきた。
これを考えるときには、「生物」とは何かを考えねばならない。今日は個々から初めて次の順序で話す。
地球生物の普遍性と特殊性
生命惑星誕生の条件
その条件の一つとして最も大事なハビタブルトリニティモデル
これをまとめて→宇宙に「生物はいるのか」に対する回答
1、地球生物の普遍性と特殊性
私達が生物の存在について議論する時には、地球生物だけでなく宇宙でも生存しうる生物を考える必要がある。私達が知っている生物とか、生命という現象は、地球生物だけである。従って宇宙生物を想像する時には、地球生物から想像せざるを得ない。そこで地球生物の持つ普遍的な性質と、地球生物固有の特殊性は何だろうと区別しなければならない。これをうまく整理出来れば宇宙生物を想像することが出来る。
「普遍性」
・生命を構成する元素 C H O N この四つの元素中心とした有機化合物
・細胞の存在 生物に於いて最小の単位である。
「特殊性」
・各動植物が使用する元素には様々な違いがある。
・細胞の中身、集まりの仕方には様々ある。
生命惑星誕生の条件
生命が誕生し、進化しうる惑星の条件は何か。この情報源は地球しかない。ここで重要なのはハビタブルトリニティという概念である。科学者がこれまで行ってきた地球史研究に基づき、地球はどのような条件をクリアした結果、現在のような生命体のいる惑星になったか、其の条件を洗い出した。それが次の3グル-プである。
グル-プ 生命が誕生する惑星になる為の条件 20項目
グル-プ 生命が誕生した後、大型多細胞生物になり得る為の条件 8項目
グル-プ 文明を持つ惑星へと進化しうる条件 6項目
それぞれの条件を①グル-プから順にクリアしていくことが、(合計34条件)生命誕生の条件であり、進化の条件である。夫々の詳しい説明は省略しポイントのみ解説する。
グル-プ 生命誕生の条件 以下のような条件が20個ある。
・「中心星の化学組成と大きさ」 適正な元素の量が水の存在に不可欠。
生命誕生を支配する重要な元素として、炭素(O)と酸素(H)がある。この二つの元素は相性が良くてすぐくっつくので、適正な比率で存在しないと、Oが不足して水が形成されない。
・「円軌道を持つ」
我々の太陽系では、殆どの惑星が円軌道を持っている。楕円軌道だと、夏場には灼熱地獄となり水が蒸発 してしまう。冬場では全球凍結となり、生命誕生及び存続できない。
・適正な惑星のサイズ
惑星のサイズが小さいと重力が小さすぎて、大気や海洋(水)を持てない。
グル-プ 生命誕生の後、大型多細胞動物への進化可能な条件 8個
・オゾン層の存在
多細胞生物になると、海洋から陸上に出る。そこにはオゾン層の存在が不可欠。オゾン層があると、酸素濃度も濃くなるので、脊椎動物が生まれる。これが進化していく。
以上のように①②③のグル-プの条件をクリアすると、生命が誕生し、進化し、我々のような文明を持つ生物が生まれ進化するのである。
宇宙に生物はいるか
以上の条件を考慮しながら、今日の本題「宇宙に生物はいるか」という本題に入る。
ハビタブルトリニティ(Habitabie Trinity)と言う概念が2015年に発表された。三つの成分である大気・海洋・大陸を構成する元素(P、K、その他)が常に循環し、連続的に供給されることが生命にとって不可欠である。
このような、大気・海洋・大陸の存在と太陽のもとで必要元素が循環する環境をハビタブルトリニティとよぶ。
現実には水さえあれば、生命は誕生すると言っている学者もいるが、そんな単純なものではない。
「現状」
太陽系の中に1500個の、太陽系の外に6000個の惑星が見つかっている。その中でNASAは、HB40307G、:ケプラ-186S、ケプラ-16Pという三つの惑星をハビタブルゾーンにあるとして、生命を持つ惑星の候補としている。
「生命が存在するかどうかの具体的テスト」
先ず①のグル-プの条件20個で、果たして生命が存在するかをチェックしてみる。
対象惑星 金星・月・火星・エウロパ(木星の衛星)、地球
金星・月・エウロパは完全に脱落し、火星は①のグル-プの条件はクリアする。しかし②③のテストがある。
「宇宙に生命はいるか」
惑星科学の研究者の多くは「いると思う」と答える。その根拠は、銀河系の恒星の数の多さが理由だとする。銀河系の中には1000億の太陽がある。という事はそれと同じ、また以上の惑星があるからである。だから、生命の存在の確率は大きくなるという論理である。
しかし我々は①②③のグル-プの生命誕生、進化の条件を34個提示し、これから可能性を探求する。
これから計算すると、生命の存在する確率は1/1000億。これは銀河系の太陽の数である。銀河系で1個有るかも知れないという確率である。しかし考慮しなければならないのは、それぞれの条件を1/2の確率で計算しているが、実際にはそれぞれ1個の条件の確率は極めて低い。これから我々が導き出した結論は
「銀河系の中に生命のいる惑星の確率は限りなく0(ゼロ)に近い」
確かに確率は幾ら低くても、生物が存在しないとは言えないというのが、現在の多くの科学者の理解である。そこで実際に候補を絞り込んで惑星を探査するという事が、次の重要なステップである。
「コメント」
此の論理自体は極めて、論理的で理解できる。しかしこの①②③グル-プのそれぞれの条件が正しいのか。私に論評する知識はないが、この方法への宇宙生物学、惑星科学の専門家の意見はどうであろうか。聞いてみたいもので
ある。論者は問題提起をしていると理解すればいい。
それにしても、宇宙に生命体がいるとすれば、今地球上で起きている事柄の意味は全く違う展開となる事は
間違いない。