科学と人間①植物の不思議なパワ- 甲南大学教授 田中修
150612⑪植物の仕組みが役に立つ
「マジックテ-プ」 引っ付き虫
バイオミネテクスという言葉がある。植物の仕組みを真似て新しい商品や技術を開発するという意味。その代表が面と面とをピタッとくっつけ、はがしても又くっつくという不思議なテ-プ。マジックテ-プとか、マジックファスナ-と呼ばれるもの。これは植物の仕組みを真似て出来た。
スイスのジョルジュ・デネストラムと言う人が、散歩の途中いわゆる(引っ付き虫)がズボンの裾にくっついた事から始まる。彼はこの仕組みを調べ、開発した。先端のトゲの部分が釣り針の様に曲がっていて、これがズボンの繊維に引っかかったのである。
マジックテ-プの片面は斯の釣り針状の鉤形、もう一方は引っかかる為の輪とした。彼は野生ゴボウの実で発見したが、日本にはないので
同じ構造のオナモミで発見したといわれている。事実は野生ゴボウである。
「ご飯がくっつかないしゃもじ」 蓮の葉のロ-タス効果
是を生んだ植物はハスの葉。水滴が落ちたらクルクルと丸まって転げ落ちるあれである。普通には葉の表面が滑らかでツルツルだからと思うけど間違い。顕微鏡で見ると、ツルツルではない。小さなコブが沢山並んだ凸凹構造をしている。その凸凹構造で、水は水滴状態になって転げ落ちる。これで葉の表面にある泥や虫などを転がして落としているのだ。これを「蓮の葉効果⇒ロ-タス効果」という。
ご飯がこびりつかないしゃもじは斯のロ-タス効果を利用している。このしゃもじには、大きなツブツブが何個かあり、このツブツブに更に小さな突起が無数にある。二重突起である。この小さな突起でご飯粒は弾き飛ばされるのである。
(ハスの葉がこの仕組みを持っている理由)
ハスの葉は最後にはレンコン(蓮の根)に繋がっている。蓮根は泥の中で育つので泥の中で呼吸しなければならない。その為に蓮根には穴が開いていて、葉より空気が送られている。よく見るとハスの葉の真ん中にヘソみたいな空気穴がありここから空気を送っている。だから葉の表面が汚れていると空気穴が詰まってしまうので常に綺麗でなければならない。この為、葉はロ-タス効果で水/汚れ/虫などを弾き飛ばしている。空気が通っているのを実証するのが「ハス酒」、よく6~7月にお寺などでイベントとして行われている。ハスの葉に酒を注ぎ、下の茎から飲むというあれである。
(このロータス効果を利用した例)
・車をきれいにするコ-ティング 塗装表面を凸凹にして水滴・ほこりを弾いている。つるつるとしたワックスのせいではない。
・水で汚れが落ちる壁
・水で落ちない化粧品
・ヨーグルトの蓋 従来は開けると内容物が蓋にくっついたが今はつかない。蓋に工夫がされているのだ。
「窒素肥料の生産」 レンゲソウ
ハ-バ-・ボッシュという二人の科学者が農業に不可欠な窒素肥料製造を発明して、ノーベル化学賞を受賞。しかしこの生産には高温・高圧の大規模設備が必要。空気中の窒素よりのアンモニア生成である。これに代わって現在はレンゲソウをヒントにして常温・常圧での生産の研究が進んでいる。レンゲソウの根にある根粒菌は窒素肥料を作る。これに着目。これが成功すればコストの安い窒素肥料が供給される。
「緑肥」 植物を直接肥料として使う
・レンゲソウ 現在は使われなくなった。その訳は、コストの安い窒素肥料の供給、田植えの機械化。何故田植えの機械化なのか。
機械化の効率から小さい苗を使う⇒早い田植え⇒レンゲソウの生育が間に合わない
・菜の花
・ひまわり 根にキンコン菌と言うものがいて、りんを集めるためリン酸肥料として利用される
「アレロパシ-効果」 植物の出す成分の利用
・マリ-ゴ-ルド 根より出る成分が有害な線虫を殺す
・クルミ 葉が落ちて腐るとジハグロンという物質を出す。これは雑草の発芽・生育を阻害するのでクルミの下には草が生えない。
・セイタカアワダチソウ これは帰化植物だが、猛烈な勢いで繁茂した。繁茂の理由は「帰化植物なので天敵がいない」「種・地下茎で繁殖」「群生して他の植物を圧倒する」と言われたが実は大きな理由がある。
それは根からのシスデヒデロマトリカリアステルという成分が他の植物の発芽・生育を阻害するのである。
・レンゲソウ ラクサン・プロビオンサンという成分が他の植物を阻害する。
「まとめ」
・以上の様に多くの植物が持っている仕組みを利用して我々の暮らしは成り立っている。
・それぞれの植物は固有の仕組みを持って生き延びている。
・まだ解明されてない植物の仕組みは沢山ある。
・故に植物の多様性は維持されなければならない。